介護現場の人材不足が外国人労働者の受け入れでは解消できない2つの理由

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外国人技能実習制度の対象職種を介護にも拡大して、今後さらなる人材難が予想される介護現場の対策とすることが新聞記事になっていました。(2015年1月24日日経新聞朝刊「介護職、外国人を拡大 厚労省素案、技能実習の対象に」「小手先の対応は限界 介護の人材難、一段と」)

外国人を受け入れて労働力を確保するこの施策では、正直に言って介護現場の人材難に対してほとんど効果がないと僕は思います。

外国人技能実習制度とは

今回、改正しようとしている外国人技能実習制度とは以下のような内容となっています。

・発展途上国への技術移転を目的にしている。
・外国人を「技術実習生」として日本に受け入れ、働きながら学んでもらう。
・在留期間は現在は最長3年間(5年に延長する方針で検討中)

この制度を介護業界にも適用しようというお話ですね。
1993年にスタートした制度なので、建設や農業などではすでに外国人を受け入れていますが、賃金未払いや低賃金の長時間労働がたびたび問題にもなっています。

介護現場への外国人の受け入れはどう変わる?

介護現場では、すでに経済連携協定(EPA)によって外国人の受け入れは行っています。
しかし、その人数は微々たるもので年間数百人程度です。
経済連携協定での介護福祉士
しかも、経済連携協定(EPA)での外国人介護福祉士候補者の受入れは、介護分野の労働力不足への対応として行うものではなく、相手国からの強い要望に基づき交渉した結果、経済活動の連携の強化の観点から実施するものです。

参考 インドネシア、フィリピン及びベトナムからの外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れについて/厚生労働省

この経済連携協定での受け入れに加えて、外国人技能実習制度でも受け入れを増やしていこうということですね。
介護現場への外国人の受け入れ見直し

介護現場の人材不足が外国人労働者の受け入れでは解消できない理由1 「受け入れ人数が少なすぎる」

現在でも介護の人手不足はよく話題にあがりますが、今後一段と深刻化していくでしょう。
団塊の世代が75歳以上になる2025年度には、約30万人の介護職員が不足すると見込まれていますね。
介護職員は約30万人不足する

【参考】

介護の人手不足の原因と「介護職員確保へ数値目標」に加えてほしい『リーダーの育成』
現在でも介護業界の人手不足は、たびたび話題にあがります。 今後も高齢化がさらに深刻化する事が予想されており、より一層の介護業界の人手不足が見込まれています。 その状況を改善するために厚生労働省が数値目標定める方針だという事で、2014年10...

約30万人不足するとの予想に対して、外国人の受け入れでどの程度まで補うことが出来るのでしょうか。

外国人技能実習制度での現在の受け入れ人数から推測する

外国人技能実習制度はすでに運用されており外国人を受け入れていますので、その現状を見て介護職が対象の職種となった時にどのくらいの人数になるのか推測してみます。(参考/技能実習制度の現状pdf)

平成24年末の技能実習生の数
職種別の技能実習生の受け入
職種別のグラフを見ると、多い職種でも1万人程度です。
それも今まで長期間この外国人技能実習制度を運用をしてきての結果ですからね。
新しい職種に介護が加わったとしても、すんなりこの水準まで受け入れ人数を増やすのは相当厳しいでしょう。

それを考えると、経済連携協定での受け入れと合わせたとしても数千人程度しか見込めないと思います。
約30万人不足すると言われているわけですから、ほとんど効果がないと言っても良いのではないでしょうか。

また、外国人技能実習制度では在留期間が決まっているので、長期的な労働力としては考えられませんよね。
この制度自体が、途上国の支援が名目ですのでしかたのないことなのですが、せっかく育てた人材も最終的には自国に帰ってしまうことは大きなマイナスポイントといえるでしょう。

人材育成ってものすごく労力がかかりますし、現場にとって大きな負担となります。
僕も研修を担当することがあるのですが、同じ日本人であっても介護技術を教えるのには苦労しますからね。
それを外国人にするとなると、それ以上に苦労するでしょうね。

介護現場の人材不足が外国人労働者の受け入れでは解消できない理由2 「言葉の壁で外国人介護職が成立しにくい」

そもそも、言葉の壁がある外国人に介護職が務まるのか疑問です。
良い介護をするには、コミュニケーション能力が重要だと僕は思っています。
コミュニケーション能力こそが、介護技術で最も大切なのです。

介護現場でのコミュニケーションというと、2つ考えられます。
1つは職員どおしのコミュニケーション。2つ目がご利用者さんとのコミュニケーションです。
職員どおしのコミュニケーションは何とかなるかもしれませんが、ご利用者さんに対してのコミュニケーションでは相当に苦労するでしょうね。
コミュニケーションを取る相手は、認知症などの疾患をもった高齢者なわけですから。

例えば、「お昼ごはんができました。」「昼食の時間です。」「昼飯にしましょう。」「お食事を召し上がってください。」と同じような場面で使えそうなセリフを並べてみましたが、この微妙なニュアンスの違いを理解できるでしょうか。
僕は、介護ではこの言葉の微妙なニュアンスの違いを大事にして仕事をしています。

新聞記事では、

介護現場への受け入れでは外国人に一定の日本語能力を求める。素案では日本語能力試験の中レベルで、日常会話や新聞の見出しが分かる「N3」程度を求めた。介護の業界団体からは入国時は基準を緩め、基本的な文章やゆっくりした会話が分かる「N4」レベルも認めるべきだとの提案があり…

との事ですが、残念ながらその程度の日本語能力では、ご利用者さんに合わせた言葉を選んでコミュニケーションを取れるとは思えませんね。
そのような人材では、労働力として計算するのは育成するコストの方が高くついてしまうのではないでしょうか。

まとめ

外国人技能実習制度は、外国人に技術を学んでもらうための制度で、人材不足への対応が本来の目的ではないです。
しかも、介護といった人を相手にするサービス分野が加わるのは初めてです。

介護の人材不足の解消を外国人に期待するのは、育成コストの方がかかってしまうためにうまくいかないと僕は思います。

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この記事を書いた人

●ユニット型特養13年目
●課長(特養、ショート、デイ、居宅、包括)
●元ユニットリーダー、施設ケアマネ
●介護認定審査員、介護福祉士実習指導者、技能実習指導員
●介護福祉士、介護支援専門員

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