厚生労働省が、介護事業者に対して新しい助成金を創設すると新聞記事になっていました。
介護事業者の定昇導入で助成 厚労省、最大200万円/2016年2月14日 日経新聞朝刊
介護士が不足している大きな要因のひとつである給料が安いという問題。
介護事業者に定期昇給制度を導入させて、給料を少しでも上げることによって介護士の離職率を下げようというのがこの施策のねらいです。
この施策は、どの程度効果があるのかを考えてみましょう。
介護事業者が定期昇給制度を導入すると助成金がもらえる制度
介護事業者の4~5割には定期昇給制度がなく、介護職員は長く勤めても賃金が上がりにくい現状があります。
それを改善しましょう、ということですね。
定期昇給制度(ていきしょうきゅうせいど)とは経営学用語の一つ。
企業が従業員の昇給を実施する際に、それを従業員の年齢や勤続年数を基準とすることであり、このことから毎年自動的に定まった金額へと昇給されていくような仕組みのことをいう。定期昇給制度/wikipedia
わかりやすくするために、この助成金の内容を箇条書きで上げてみました。
・従業員の賃金に定期昇給制度を導入した介護事業者に助成金を支給する
・2016年4月から実施
・助成金は3段階に分けて支給する
・定期昇給制度を導入した時点で50万円
・1年後の離職率が下がっていればさらに60万円
・2年後の離職率が上がっていなければさらに90万円
・2016年度に2400事業所の利用を見込んでいる
・財源は雇用保険特別会計から12億円
最大で200万円の助成金が、介護事業者に支給される計算ですね。
離職率が改善された介護事業者に支給される金額が増えるのは一見よさそうです。
しかし、離職率は定期昇給制度を導入したからといってすぐに改善されるものではないし、介護事業者のほとんどは従業員100名以下の中小企業が多いためイレギュラーな事態によって離職率が大きく変わってしまう可能性が高いです。
ですので、離職率で助成金の支給額が変わるのは微妙なところですね。
2400事業所は多いのか少ないのか
次に、この助成金の効果について考えてみます。
厚生労働省は、2016年度に2400事業所の利用を見込んでいるとのことですが、この数字は多いのか少ないのか。
介護事業所の全体の数字から考えてみましょう。
厚生労働省のホームページにある『平成26年介護サービス施設・事業所調査の概況』によると、介護保険制度における全ての施設・事業所は、介護保険施設、居宅サービス事業所など、延べ36万1,434カ所(平成26年10月1日現在)あります。
この約36万カ所の介護事業所の約半数には定期昇給制度がないので、18万カ所ですね。
18万カ所のうちの2400事業所がこの助成金を利用するというのは多いのか少ないのか。
これも微妙なところではないでしょうか。
現場の介護職員へのメリットは
助成金がもらえるのは介護事業者、つまり会社ですので、現場の介護職員にとって直接プラスにはなりません。
ただ、今まで定期昇給制度がなかった会社に定期昇給制度が導入される可能性が高まったのは処遇改善につながる流れです。
なぜ介護士は長く勤めても賃金が上がらないのか
なぜ介護士は長く勤めても賃金が上がらないのかというと、介護の仕事は経験が直接利益につながらないからです。
例えば、ある介護士が1人あたり10人の利用者さんを見ることが出来ていたのが、経験を積んで20人の利用者さんを見れるようにはならないんですよね。
もちろん経験を積んだことによって利用者さんのリスクヘッジができたり、今までより充実した時間を過ごせるようになったりするかもしれませんが、そこには金銭的な意味での利益は発生しません。
介護の仕事は介護保険制度の下で行われ、サービスによって単価は決まっています。
その結果、経験豊かなスーパー介護士でも未経験で介護をやり始めたばかりのひよっこ介護士でも利用者さんからいただくことが出来るお金は一緒なんですよね。
高齢化で介護サービスへのニーズが高く、介護施設や介護職員が不足している現状であっても、経験豊かな介護士の給料を上げにくい構造的な問題があります。
まとめ
僕が勤務する施設では定期昇給制度はすでにあるのですが、その金額が少ないです。
全ての介護事業所に定期昇給制度が導入されても、その金額が少なければ介護士の賃金は安いままでしょうね。
この助成金によって実際に離職率は下がるのかといったら、たいして変わらないでしょう。
まあ、ないよりはあった方がいいかもねってところでしょうかね。
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