認知症の症状の1つとして「徘徊」があります。
年間で約1万人が行方不明となっており、そのほとんどが捜索によって発見されていますが、大きな事故や事件になってしまいニュースになることもしばしばあります。
そんな現状の中、認知症高齢者を見守るシステムの開発が広がってきたと、2014年12月22日の日経新聞夕刊トップで「高齢者、スマホで見守り 位置情報を地域で共有」と記事になっていました。
そもそも徘徊という言葉が好きではない
「高齢者、スマホで見守り」の記事を紹介する前に、「徘徊」という言葉について個人的なお話を。
介護における記録でもニュースでも安易に徘徊って言葉を使うけど、僕はこの徘徊という言葉が好きではありません。
そもそも徘徊っていう言葉の意味は
目的もなく、うろうろと歩きまわること
です。
歩きまわってしまう認知症の人に話を聞くと「おうちに帰りたいの。」とか「お昼ごはんを用意しないと。」と話してくれたり、さりげなくトイレに案内すると排泄があったりとはっきりとした理由があることが多いんですよね。
うろうろと歩き回っている行為を「徘徊」だと思うのは本人以外の人たちで、本人は「徘徊」だとは思っていません、たぶん。
それに徘徊って言葉自体が、なんだか暗くってどんよりしててイメージ悪いじゃないですか。
だから僕は記録に残す時に「徘徊」をなるべく使わないようにしています。
『「帰りたいのよ。」と言いながらフロア内を何度も行き来していた。』『落ち着きがなくテレビの前のソファに座ったり、居室に戻ったりしていた。』というようにに事実をそのまま記録に残す感じですね。
「徘徊」って言葉を使って簡単に記録を済ませることもできるのですが、あまり好きではありませんね。
位置情報を地域で収集して介護の負担を軽減するシステム
さて、今回の新聞記事で紹介されていたのは、介護中堅企業の「メディカル・ケア・サービス」が開発した『認知症高齢者の外出検知・所在検知サービス』です。
このサービスを利用するには、事前の準備として以下のことが必要です。
・500円玉大の発信機を衣服など高齢者の身の回り品に、家族の同意を得て事前に取り付けておく
・説明会などを開いて施設周辺の住民に協力を仰ぎ、発信機の電波を拾って位置情報を介護施設に送る無料アプリをスマホに取り込んでもらう
これで最大80メートル離れていても検知でき、スマホを持った住民がすれ違う程度で自動的に居場所が把握できるそうです。
地域の住民などが協力するってところが、なかなか画期的なシステムですね。
都内のグループホームで効果を検証し、徘徊した高齢者を見つけるまでの時間を従来の3分の1に短縮できる見込みがたったそうなので、認知症患者の安全確保や介護職員の負担軽減につながりそうです。
ただ、位置情報を検知する人が少なければ効果が薄れてしまうので、このアプリをインストールしている人をどれだけ増やせるかが、このシステムが成功するかのポイントになりそうですね。
メリットばかりではない、ちょっと気になる認知症高齢者の尊厳の保持
この新聞記事では、「認知症患者の安全確保につながる」「介護職員の負担軽減になる」とメリットだけが書かれていました。
でも、デメリットもあると僕は思います。
それは「認知症高齢者の尊厳が保持できるのか」ということです。
尊厳の保持とは
「尊厳の保持」は普段の生活ではあまり耳慣れない言葉かもしれませんが、介護を勉強したことがある人なら必ず知っていると思います。
個人の尊厳は、個人の尊重ともいい、すべての個人が人間として有する人格を不可侵のものとし、これを相互に尊重する原理をいう。人間の尊厳、個人尊厳の原理、人格不可侵の原則。基本的人権と同義ともされ、個人主義をその背景に持つ。
個人の尊厳/wikipedia
なんだか難しい言葉が並んでいて理解するのが難しいですが、僕なりに介護の場面での「尊厳」を簡単に説明すると、
認知症などで不自由な高齢者であっても普通の人と同じように生活する権利がある
ということですね。
それを「保持する=守る」ということです。
「尊厳の保持」を簡単に理解するには、自分に置き換えて考えてみるといいです。
自分が発信機を持たされて、自分がどこにいるのかわかってしまう状態になっているのを想像してみてください。
僕だったらあまり心地のいい気はしませんね。
これを、認知症だから仕方がない。本人の安全確保のためだ。って割り切ってしまっていいものなのか、僕にはちょっと疑問が残ります。
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