様々な症状がある認知症。
その認知症の症状を薬物に頼るのではなく関わり方を変えることによって改善していこう。という趣旨の本を読みました。
認知症介護「その関わり方、間違いです!」―介護現場の理学療法士直伝
専門用語も少なく、大きめの文字で書かれていたのでとても読みやすかったですね。
介護士さんだけでなく、一般の在宅で認知症を介護している人にもお勧めの本です。
目次
- 第1章 物盗られ妄想からの脱却
- 第2章 未来の認知症ケア
- 第3章 介助者が大切にしたい「目と手と心」
- 第4章 介助にメッセージを込めよう
- 第5章 関わり方方法論「お笑い」からコミュニケーションの極意を学ぶ
病院で認知症と診断を受けると、薬が処方されて薬物での治療に頼ってしまいがちです。
もちろんそれも大切なことですが、日々の生活での関わり方を改善することによって認知症にも良い効果があると書かれています。
実際に、認知症の人にそういった良い関わりを持つことでどの程度の効果が望めるかは千差万別でしょうが、納得できる内容だったので第1章から認知症介護の基本をご紹介します。
認知症介護の基本
認知症の症状として多い「物盗られ妄想」を分析して、認知症介護の基本を学んでいきましょう。
本書では、「一方通行の関係が妄想を生む。」として妄想が生まれるメカニズムを以下のように解説していました。
〇登場人物/トメコ(75歳)認知症「物盗られ妄想」・ミキ(トメコの息子の嫁)
〇状況/トメコさんが自転車事故で転倒し入院生活。
退院後の在宅生活ではミキさんがトメコさんの身の回りの世話を全部行っていた。
数か月後トメコさんが「私の財布盗ったわね!」とミキさんに言い「物盗られ妄想」が始まる。
妄想が生まれる心理的メカニズム
家事、身の回りのことを全部嫁がしていると、一方的に嫁から介護を受ける。
↓
「すまないね、すまないね」最初は感謝しているが、気がねするあまり「自分などいなければいいのでは」と疑念がわく。
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迷惑ばかりかける存在、無価値な存在であることに重圧を感じる。
周りからも「いなくなればいいのに」「死ねばいいのに」と思われているのではと疑念がわく。(潜在意識はこの重圧から逃れようとする)
↓
相手に迷惑をかけるだけの存在から、相手から迷惑をかけられる存在になれないか模索がはじまる。
↓
相手が自分に泥棒をしているというストーリーを選択する。
↓
ストーリーが現実に起こっているという錯覚が生まれる。
↓
妄想の出現…嫁が泥棒をして、迷惑をかけられているのはわたしだ!と感じる。
といった思考の流れで妄想が生まれていきます。
認知症によって「ただ忘れてしまっている」のではなく、手伝ってもらって申し訳ないという思いが妄想を生むきっかけになっているんですね。
これは、ミキさんの献身的な介護が、逆にトメコさんの居場所と役割を奪ってしまったとも言えます。
しかし、全ての事を以前のようにトメコさんにやってもらう能力はないといった現実もある。
じゃあ、どうしたらいいのか。
ここを考えることで認知症介護の基本がみえてきます。
本人に「居場所と役割」を作る
トメコさんは「お世話されるだけの存在」になってしまい、ミキさんと「一方通行」の関係になってしまっていました。
それを、トメコさんに「居場所と役割」のある生活を送ってもらい、「両側通行」にしていくことが認知症の症状の改善につながっていきます。
一度失った「居場所と役割」を取り戻すのは非常に難しいのですが、ちょっとしたコツがあります。
それが「痴呆論―認知症への見方と関わり学」から居場所と役割づくりの3条件として引用されていましたのでご紹介します。
- かつてやっていたことか、それに近いこと
- 今でもできること
- 周りの人に認められること
上記の3条件を意識して居場所と役割づくりを見つけていきましょう。
トメコさんの場合
ヘルパーさんが聞き取りをしていく中で、トメコさんは調理・畑づくり・孫の送り迎えをやりたがっていることがわかってきました。
それを家族や多職種との連携によって出来ることから実現していきました。
- 調理は、毎日は難しいため、週末にミキさんと一緒に行う。
- デイサービスでもおやつ作りなどで調理に復帰していく。
- 畑づくりは、かつてやっていた大きな畑は困難と判断して、庭先に小さな畑をこしらえる。
- 孫の送り迎えは、保育園の道のりをトメコさんだけでは危険と判断して、家の玄関から見送ることからはじめる。
そして、最後に重要なのが
トメコさんの担う役割について、どんな小さなことでも感謝の言葉かけをする。
です。
それによって、少しづつ「周りの人から認められる」という環境がつくられていきました。
まとめ
いかにしてその人の出来る事を見つけ出すのかが、ポイントですね。
トメコさんのように本人のニーズをくみ取ることが出来れば最高ですが、なかなかそれも難しいことが多いです。
そういった場合でも、どんな些細なことでもいいので本人の出来る事を見つけ出して手伝ってもらう。そして、感謝の言葉を伝えることが出来れば、それが「居場所と役割づくり」につながっていくのではないでしょうか。
よろしければ、関連記事「認知症介護「その関わり方、間違いです!」を読んでお笑いからコミュニケーションの極意を学ぶ」もご覧ください。
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