介護の仕事では医療の知識が求められる場面が多々あり、医療的な行為をしなければならないこともあります。
ただし、基本的に医療行為というのは医師や看護師の職域なので、介護士がやってはいけないことになっています。
どんなことが医療行為にあたるのかを知らなければ、知らず知らずのうちに法を犯しているなんてことにもなりかねません。
2015年10月の話ですが、有料老人ホームで勤務していた介護士が、やってはいけない医療行為を実施していたため書類送検されたことがニュースになっていました。
老人ホームで違法医療行為、容疑で元施設長ら22人書類送検へ 大阪府警/産経WEST 2015年10月2日
この事件では、元施設長のほかに看護師1人と介護士19人が書類送検されたようです。
介護士が医療行為について知識がないと、真面目に仕事をしていたつもりが犯罪者になってしまう可能性があるということですね。
僕自身も、介護職員基礎研修(現・実務者研修)の資格を取得する時に勉強しただけで、自分の知識に自信がなかったので『おさえておきたい介護スタッフができる医療行為』を読んで再確認してみました。
介護スタッフが出来る医療行為を事例で学ぼう
本の中で、「どこまではゆるされるの?介護職の医行為○or×」という事例を元に○×形式で書かれたページがわかりやすかったので、4つのケースから介護職が出来る医療行為について学んでいきましょう。
爪切り
入浴後に田中(仮名)さんの爪切りをしようと足の爪を見ると、白っぽく濁って少し厚くなっていた。
様子を聞くと「痛くないので大丈夫」というので、そのまま爪切りを行なった。
爪切りに関する問題ですね。
よくある場面なのではないでしょうか。
ポイントは、爪に異常を発見した場合にどう判断したらよいかということですね。
正解は…
×です!
ご利用者さんの爪に何らかの異常に気がついた時は、介護職が爪切りを行なってはいけません。
この事例の場合、爪白癬が疑われますので、医師や看護師に報告、相談しましょう。
もちろん、通常の爪切りだったら医療行為ではありませんので、実施してかまいませんよ。
軟膏の塗布
褥瘡のある田中さんのシャワー浴後、担当の介護職員から「褥瘡の部分に薬を塗っておいて」と言われたので、薬を塗ってガーゼを新しいものと交換した。
軟膏の塗布に関する問題ですね。
これもよくある場面ですね。
ポイントは、褥瘡の処置は介護士がやってよいのかというところです。
正解は…
×です!
介護士は、軽い擦り傷や切り傷などへの軟膏の塗布は認められていますが、褥瘡の処置は医療行為なのでできません。
褥瘡の処置は、感染などの危険も高く専門的な知識が求められますので医療行為です。
医師や看護師との連携が大切ですね。
浣腸
田中さんは3日間排便がなく「お腹が苦しい」という訴えがあったので。施設にあったノズルのついた浣腸で浣腸を行なった。
正解は…
△です!
介護職に使用が認められている浣腸は規格が決まっています。
具体的には「ノズルの長さが6cm以下」「グリセリン50%以下」「容量40g以下」です。
どんな浣腸でも使っていいわけではないので注意が必要です。
たんの吸引
夜間の巡回時、田中さんから「たんがからんで苦しいので吸引してほしい」と言われたが、喀痰吸引の研修を受けていないので出来ないことを伝え、吸引が出来る介護士を呼んで吸引してもらった。
正解は…
○です!
たんの吸引は、介護士でも行えるようになりましたが、指定の研修を受けた介護士のみ実施できます。
研修を受けていない介護士は実施できません。
さらに、研修を修了した介護士でも、勤務する介護施設が喀痰吸引等業務について事業者の登録をしていなければ実施できません。
介護士としては、背部のタッピングとガーゼで拭うくらいしかできないですね。
介護職が行っていい医療行為のまとめ
厚生労働省からの通知で根拠を確認する
介護職の医行為について事例を使って確認してきたわけですが、これらは厚生労働省からの通知などを根拠にしています。
- 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(2005年7月)
- 【参考】平成24年4月から、介護職員等による曙疾吸引等(たんの吸引・経管栄養〉についての制度がはじまります(2011年9月)
- 2012年4月に「社会福祉士及び介護福祉士法」の一部改正で、一定の条件を満たせば「たんの吸引と経管栄養の実施」が可能になる
- 【参考】喀痰吸引等制度について/厚生労働省
- ストーマ装具の交換について
この通知を元に介護職が行っていい医療行為を一覧にすると以下のとおりです。
行なってよい医療行為
- 水銀体温計、電子体温計を使って腋下(わきの下)で体温の測定、耳式電子体温計を使って外耳道で体温の測定
- 自動血圧計測定器による血圧の測定※水銀血圧計による血圧の測定は医行為に含まれるためNG
- パルスオキシメーターを使用して動脈血酸素飽和度の測定
- 軽微な切り傷、擦り傷、やけどなどの処置※汚物で汚れたガーゼの交換もOK
- 爪切りとやすりがけ※爪に異常がある、爪の周囲の皮膚も異常がある、糖尿病等の疾患に伴う専門的な管理が必要な場合はNG
- 口腔ケア(歯、口腔粘膜、舌に付着している汚れを取り除く)
- 耳垢の除去※耳垢塞栓の除去はNG
- ストマ装具のパウチにたまった排泄物の処理※肌に接着したパウチの取り換えはNGだが、専門的な管理を必要としない場合は原則として医療行為には該当しない
- 自己導尿を補助するために、カテーテルの準備や体位の保持をする
- 市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器を用いて浣腸する※挿入部の長さが5~6cm以内、グリセリン濃度50%、成人用の場合で40g程度以下
条件付きで行なってよい医療行為
- 皮膚への軟膏の塗布※褥瘡の処置はNG
- 皮膚への湿布の貼付
- 点眼薬の点眼
- 一包化された内用薬の内服(舌下錠も含む)
- 肛門からの座薬の挿入
- 鼻腔粘膜への薬剤噴霧
条件について詳しくは通知を確認してほしいのですが、簡単に言うと
- 「患者の容態が安定していること、医薬品の使用方法に専門的な配慮が必要ないこと」を医師や看護師が確認している
- 医師や看護師の免許を持っていないものが医薬品の使用の介助が出来ることを本人や家族に伝えている
- それを事前に本人または家族から依頼を受ける
- あらかじめ患者ごとに区分された医薬品を医師または看護師などの指導の上で使う
ということですね。
研修を受けた介護職員が行える医療行為
- 痰の吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)
- 経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養)
2012年4月から法改正により「喀痰吸引等研修」をうけた介護職員は、たんの吸引と経管栄養を行なうことが出来るようになりました。
法律違反な医療行為をしている職場、どうしたらいいのか
ここからは余談です。
現在の介護業界の流れとして、現場の状況に後から法律を対応させているという現状があります。
たんの吸引と経管栄養なんてまさにそうですよね。
介護現場で、介護士による痰の吸引や経管栄養をしないと現場が回らない(人手が足りない)状況があってそれを何とかするために法整備するという流れです。
そのような現状があるので、法律違反な医療行為をしている職場は少なからずあるのではないかと思います。それに医療的なケアを必要とする介護サービス利用者は、今後さらに増えていくでしょう。
自分が働く職場で、法令違反となってしまう医療行為を介護職がしなければならない状況だった時どうすればよいかを考えてみます。
まず、空気を読まずに提言するだけでは解決できません。
原因を見極めて解決策を考える必要があります。
一番大切なことは、施設長、副施設長、看護主任、介護主任などの役職者が、違法行為をしている(させている)という認識をもっているかということです。
さりげなく上司に確認してみましょう。
そしてそれを解決する意思があるかということが重要です。
大きな企業ほとコンプライアンス(法令遵守)を重視することが多いです。
もし自分の職場が違法行為を改善する気が感じられない時は、自分自身の身を守るために転職を考える必要があるのかもしれませんね。
まとめ
介護職による医療行為には、まだまだグレーな部分があるのも事実です。
だからこそ、正しい知識が自分の身を守ることにつながります
正確に情報収集をして、介護士が出来ることと出来ないことを理解しておいた方がいいですね。
正しい知識を持つ介護士が増えて、違法行為は少しずつなくなっていく介護業界を期待しています。
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