認知症などの病気を持ったご利用者さんを相手にする介護現場では、一生懸命に仕事をしていても事故やトラブルを完全に防ぐことはなかなか難しいです。
僕自身は、ご利用者さんがお亡くなりになってしまうような事故は経験していませんが、ベッドや車イスからの転落や歩行時の転倒などで骨折させてしまったり、介助中の不注意でアザや傷を作ってしまった事故が勤務している施設内で起こっています。
もし業務中に事故が起きてしまい、訴えられたらどんなところが問題となるのかを事例から学んでいきましょう。
これならわかる介護事故・トラブル
先日『これならわかる<スッキリ図解>介護事故・トラブル』という本を読みました。
第1章 介護業界が抱える事故・トラブル
第2章 事故・トラブルを防ぐポイント
第3章 それでも事故が起きたら
第4章 契約と法律をおさらい
第5章 利用者や家族からのよくある相談
【内容紹介】
職員と現場を守るのは「知識」です!
実際に起きた「事故事例」や知っておきたい「法律知識」が盛り沢山! 介護現場では、ヒヤリハットはつきもの。
しっかり対応すれば、重大事故を防ぐことができますし、万一のことが起きても、「知識」があれば職場や職員を守ることができます。
本書は、過去の事例から「事故が起きたとき、何が・どこが問題として責任が問われたか」をご紹介。日々の業務で注意したいポイントや、知っておきたい法律知識をできるだけわかりやすくまとめています。
現場の事故・トラブルに対して責任のある事業者、施設長、管理者、責任者、介護リーダー等の方々に読んでいただきたい一冊です。
さすがに管理者などに向けた本だけあって少し難しい内容だったのですが、特に印象的だったのは、
「介護現場では重大事故やトラブルのリスクがこれほどに高い一方で、現場の方々はあまりに知識がなく、あまりに無防備ではないのか?」
という著者の言葉で、ごもっともだなと思いました。
この本には過去の事例がたくさんのっており、「事故が起きた時、何が・どこが問題として責任が問われたのか」という、裁判で問題となったポイントが書かれています。
事例から怖さを知る
事故が起きてしまい裁判になったらどうなるのか、2つほど事例をみてみましょう。
そして、ビビってください(笑)
怖さを感じることは、事故予防の第一歩です。
色々な事例を読んで、僕はちょっと仕事が怖くなりました。
自分の仕事しだいで賠償責任を問われる可能性があることは、なんとなく理解していたものの、具体的な金額まで書かれていたのでリアルに感じることが出来ましたね。
【事例1】転落事故
介護施設に入所する時、Aさんの家族は施設に対して
「病院で畳対応となっていた」
「ベッドを使ったことがないので、畳対応にしてほしい」
と伝えていました。
これを受けて施設でも、当初はベッドではなく畳対応としていました。
しかし、施設では、Aさんが部屋で壁に頭をぶつけたことがあったため、畳では立ち上がる時につかまるところがなく
「逆に転倒しやすいのではないか」
と考えて、畳からベッドに変更しました。
ベッド対応としたものの、ベッドの下にマットを置くなどの対応は取られていませんでした。
また、施設は、ベッドに変更したことをAさんの家族に伝えていませんでした。
ベッドに変更してから少し経った夜、3名の介護職員のうち2名は別の利用者の対応をし、残りの1名がベッドに正座していたAさんに声を掛けようと近づいたところ、足を動かそうとしたAさんがバランスを崩し、ベッドヘッドと柵の間からすり抜けて床に転落。
その結果、Aさんは急性硬膜下血腫の傷害を負い、11か月後にお亡くなりになりました。
賠償額/2442万円
・畳対応からベッド対応に変更した点が問題
・ベッド対応に変更しても、柵の位置を変えたり、ベッドの下にマットを敷いたりしなかった
・段差をなくし畳対応を継続すべきだった
事例から学ぶポイント
・病院からの引き継ぎ事項や従前の対応を変更するには十分な検討が必要
・変更する際には、本人や家族に説明する
どこの施設でもありそうな事例ですよね。
転倒は介護現場で最も起こりやすい事故ですので、十分な注意が必要です。
介護施設での対応は、現場の介護職員が主導となって決まっていくことがほとんどだと思います。
現場の介護職員の危険予測能力が足りなかったとはいえ、新たな事故を防ぐために変更した対応が原因で起きた事故なので、これで賠償請求をされてしまうのは同じような介護現場で働く身としてはつらいですね。
ご家族とのコミュニケーション不足も訴訟になってしまった原因としてありそうです。
事故が起こった時にもめないように、というわけではありませんが、普段からコミュニケーションをとってご家族とも良好な関係を築いていくことは大切ですね。
【事例2】誤嚥事故
その後、Bさんは、症状や家庭の事情から介護施設に入所することとなり、Bさんが通院していた病院から施設に対して、次のような申し送りがありました。
「食事摂取:自立」
「手の震え(+)、食べこぼし(+)」
「食事内容:全粥きざみ食」
また、家族からも希望して「全粥きざみ食」の申し出がありました。
これを受けて、施設も上記と同様のサービス計画を立てていました。
しかし、摂取状態が良好であること、Bさんから「刺身は常食で」との希望があることから、家族には連絡せず、刺身を常食で提供するようになりました。
そして事故当日、施設の職員はBさんに目の届くところに座ってもらい、刺身(25㎜×40㎜×5㎜)を食べてもらっていましたが、Bさんはこれを詰まらせ、意識が回復しないまま、約4か月後に亡くなりました。
賠償額/2204万円
・嚥下しやすくするための工夫をしなかった
・刺身は咀嚼しにくいため、嚥下能力が低下しているBさんに適した食物とは言えない
・Bさんの嚥下能力の低下、誤嚥の危険性に照らせば、誤嚥する危険性が高いことは予想できた
事例から学ぶポイント
・食事等の方針やサービス変更には検討を要するが、特に利用者の回復を前提として変更する場合には、より慎重な判断が必要
これもよくありそうな事例ですね。
僕が普段関わっているご利用者さんでも、基本的には通常の食事を食べているけど食材によっては刻んで提供している方がいます。
ご利用者さんの状態変化に合わせた食事形態の調整は、本人の意向を踏まえながら現場の介護職員、看護師、管理栄養士などと相談して行っているところが多いかと思います。
介護士としては、出来る限り常食に近い食事形態で食べてほしいですよね。
その方が絶対においしいですから。
その想いと誤嚥リスクとのバランスをどうとっていくかが難しい。
確かに誤嚥リスクは最小限にしたいですが、何でもかんでも安全最優先というのは正解ではないと僕は思います。
悩ましいですね。
まとめ
介護の仕事は、業務中の事故で数千万円もの損害賠償が発生してしまう可能性があります。
その損害賠償は、介護職員個人に請求されるわけではないかもしれませんが、それは過失(責任)の度合いによるでしょう。
なぜ多額の損害賠償が発生する可能性があるのかというと、介護職は人の命を預かっている仕事だからです。
介護が必要な人のほとんどは健康ではありません。
日々のルーティン業務のなかで、リスクに対する意識というのはついつい薄くなりがちですが、細心の注意を払って気を引き締めて仕事をしなければいけないな、と事例を読んで改めて感じました。
次の記事「介護の仕事中に起こる事故やトラブルを予防する方法」に続きます。
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