先日、身体拘束をテーマにした施設内研修の講師をさせてもらいました。
せっかくなので、その内容をシェアします。
初歩的な内容なので「身体拘束の基本を知りたい、再確認したい」って方の役に立つと思います。
どんな行為が身体拘束にあたるのか、なぜ身体拘束をしてはいけないのかを知って、自信を持って日々のケアができるようにしていきましょう。
身体拘束をしたことがありますか?
介護を仕事にしてお金をもらっているプロのみなさんにお聞きします。
ある?
ない?
わからない?
うーん、微妙だな。
と、迷う人が多かったのではないでしょうか。
なぜ身体拘束をしたことがあるかわからないのか。
それは
「どのような行為が身体拘束なのか、基準をよく理解できていない」
からですね。
まずは、どのような行為が身体拘束になるのかを理解していきましょう。
法令を確認しよう:介護保険指定基準の身体拘束禁止規定
参考資料は「身体拘束ゼロへの手引き」
身体拘束に関する知識が少なかったので参考資料を探すことから始めました。
意外と少なくて困りましたねー。
唯一、資料になったのが、厚生労働省の身体拘束ゼロへの手引きでした。
2001年3月に作られた物で、やや古いのですが83ページとボリュームたっぷり。
これを読めば身体拘束の基本がマスターできるでしょう。
本も探して「看護と身体拘束」を購入したんですが、研修の資料になるような内容ではなかったです。
さて、身体拘束の基準は「身体拘束ゼロへの手引き」にこう書かれています。
サービスの提供にあたっては、当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者(利用者)の行動を制限する行為を行ってはならない
余計わかりにくくなってしまった人もいるかもしれませんね。
意訳すると「身体的な拘束だけでなく、入所者(利用者)の行動を制限する行為が身体拘束にあたりますよ」ってことなんですね。
単純に身体を物理的に拘束することだけではないってことです。
そして「緊急時以外は身体拘束をしてはいけません」と書かれており、逆に考えれば「緊急時は身体拘束をしてもかまわない」ということになります。
さらに理解を深めるために、具体例を確認しましょう。
身体拘束禁止の対象となる具体的な行為
厚生労働省がさだめた「身体拘束行為」の事例が「身体拘束ゼロへの手引き」に載っています。
(1)徘徊しないように、車椅子や椅子、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
(2)転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
(3)自分で降りられないように、ベッドを柵で完全に囲む。4点柵。
(4)点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
(5)点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または、皮膚を掻き毟らないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
(6)車椅子や椅子からずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車椅子テーブルをつける。
(7)立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使用する。
(8)脱衣やオムツはずしを制限する為に介護衣(つなぎ服)を着せる。
(9)他人への迷惑行為を防ぐ為に、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
(10)行動を落ち着かせる為に、向精神薬を過剰に服用させる。
(11)自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
物理的な身体の拘束に加えて(10)では、薬の過剰な使用で行動を制限する行為も身体拘束だと定義しています。
この「物理的な身体の拘束(フィジカルロック)」「薬の過剰な使用で行動を制限する(ドラッグロック)」の2つに加えて、「言葉で行動を制限する(スピーチロック)」と、身体拘束は大きく3つに分類できます。
日頃の業務でつい言ってしまう「立たないで!」「ちょっと待って!」など、利用者さんの行動を制限しているのなら、それは身体拘束にあたります。
スピーチロックと言ったりもしますね。
では、離床センサーの設置はどうでしょう。
直接的に身体を拘束しているわけではありませんね。
ただ、自分が動こうとしたらすぐに誰かが来るような状況が精神的なプレッシャーになり、行動を制限されていると感じる利用者さんがいるかもしれません。
うちの施設では離床センサーは身体拘束にあたらないという認識で事故予防のために使用していました。
僕はセンサーが身体拘束であるという根拠を見たことがないのですが、もしごぞんじでしたら教えてもらえると嬉しいです(^o^)— 丸顔介護士ヒデ (@marukaigo) 2018年6月26日
いま調べたところ、この資料の27ページにセンサーマットの使用は不適切なケア(グレーゾーン)との記述がありますね。僕も同じような認識でした。https://t.co/3eNNjxErnk
— 丸顔介護士ヒデ (@marukaigo) 2018年6月26日
“「抑制」とは「形」の問題ではなく、あくまでも「認識と目的」の問題であり、「利用者にとってどうか?」という視点が大切です。同じ道具を使っていても、その運用方法や目的、使用条件によっては、「抑制」にも「自立支援」にもなり得ます。” https://t.co/VfCdJPMCKU
— 丸顔介護士ヒデ (@marukaigo) 2018年6月26日
“離床センサー等が禁止された身体拘束に当たるか否かという点を判断するためには、その目的が何なのかという点を検討しなければ答えはでません。”https://t.co/Kxer9pGT5H
— 丸顔介護士ヒデ (@marukaigo) 2018年6月26日
「これを使う(行う)」と身体拘束ではなく「行動制限する」と身体拘束である
この行為は身体拘束になるのか迷った時は、自分が利用者でその行為をうけたら身体や行動の自由を制限されたと感じるのかどうかを考えてみると分かりやすいです。
Yahoo知恵袋にも参考になりそうな質問と回答がありました。
(前略)ミトンやつなぎなどの身体拘束はしておりません。(中略) 普段は掻きむしらないようにし、薄いタオルケットを腰に巻いています。これも身体拘束の一種じゃないでしょうか?
【回答(抜粋)】
身体拘束は「これを使うと拘束」でなく「行動制限する」と身体拘束です。
何を使うかではありません。
身体拘束について悩んでいます。/Yahoo知恵袋
もうひとつ違うパターン。
(前略)○×形式のリストを作成できたらと思います。
ご協力お願いします。(後略)
【回答(抜粋)】
例示された事項に捉われて、身体拘束の意味をはき違える危険性を危惧します。
例えば
居室に鍵を掛ければ身体拘束…
でも、その部屋の利用者さんが寝たきり状態で動くこともできなければ拘束したことになるのかな?
他者が勝手にお部屋に入り迷惑行為を行う事を予防する為であれば、意図が異なると思います。
身体拘束の具体例を教えてください。/Yahoo知恵袋
どちらの例も身体拘束について本質的な部分を理解するのに良い質問と回答ですね。
同じ行為でも利用者さんの状況や周りの環境などによって身体拘束になったりならなかったりします。
総合的な状況判断が大事ですね。
以上が身体拘束とはどういう状態のことを言うのかという話でした。
では、そもそもなぜ身体拘束をしてはいけないのでしょうか。
身体拘束がもたらす3つのデメリット
身体拘束はダメなことだってことは、みなさん感覚的にわかっていると思います。
何らかのデメリットがあるから、やってはいけない。
では、どんなデメリットがあるでしょうか?
「身体拘束ゼロへの手引き」には、身体的弊害、精神的弊害、社会的弊害と大きく3つのデメリットがあげられています。
デメリット1「身体的障害」
身体拘束は、まず次のような身体的障害をもたらします。
①本人の関節の拘縮、筋力の低下と言った身体機能の低下や圧迫部位の褥瘡の発生などの外的弊害をもたらす。
②食欲の低下、心肺機能の低下や感染症への抵抗力の低下などの内的弊害をもたらす。
③車椅子に拘束しているケースでは無理な立ち上がりによる転倒事故、ベッド柵のケースでは乗り越えによる転落事故、さらには拘束具による窒息等の大事故を発生させる危険。
今まで自由に動けていたのを抑制するので、身体拘束が生活不活発病になる手助けをしてしまうことになりますね。
本来のケアにおいて追及されるべき「高齢者の機能回復」という目標と正反対の結果を招くおそれがあります。
デメリット2「精神的弊害」
①本人に不安や怒り、屈辱、あきらめといった多大な精神的苦痛を与えるばかりか、人間としての尊厳をも侵す。
②身体拘束によって、さらに認知症の症状が進行し、せん妄の頻発をもたらすおそれもある。
③また、家族にも大きな精神的苦痛を与える。自らの親や配偶者が拘束されている姿を見た時、混乱し、後悔し、そして罪悪感にさいなまれる家族は多い。
④さらに、介護・看護するスタッフも、自らが行うケアに対して誇りをもてなくなり、安易な拘束が士気の低下を招く。
この「精神的弊害」が、個人的には最も重大なデメリットだと感じます。
僕自身の経験ですが、同じ施設で働く職員が身体拘束をしているのを見てしまったことがあります。
ベッド上での排せつ介助の際に、利用者さんの両手をタオルでしばる。といった内容でした。
その光景は今でも目に焼き付いており、その衝撃とショックは今後も忘れることは絶対にないでしょう。
今まで介護の仕事をしてきた中で、悪い意味で一番心に残る出来事ですね。
(その場での注意と上司への報告を行い、その職員は相応の処分を受けました。)
デメリット3「社会的弊害」
①身体拘束は、介護・看護スタッフ自身の士気の低下を招くばかりか、介護保険施設等に対する社会的な不信、偏見を引き起こすおそれがある。
②また、身体拘束による高齢者の心身機能の低下は、その人のQOLを低下させるだけでなく、さらなる医療的処置を生じさせ、経済的にも少なからぬ影響をもたらす。
「あの施設、身体拘束してるらしいよ」って噂がまわってしまったら、かなり印象悪いですよね。
新規利用者の獲得に影響が出るし、そこで働く職員も地域の住民から白い目で見られるかもしれません。
このように身体拘束には大きなデメリットがあります。
ただし、なんでもかんでも身体拘束が禁止なわけではありません。
身体拘束が命を守ることもある
再度、身体拘束禁止規定の確認になりますが「当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き」と書いてあります。
つまり、事故などによる生命の危険やケガから利用者さんの身を守るためにどうしても必要な場合は、身体拘束を行って良いことになっています。
ただし、本当にやむを得ない状況なのか、どうやったら身体拘束を回避できるのか、ケアを工夫できることはないのかを考えることが重要です。
身体拘束の廃止に取り組んだ事例をリンクでいくつかご紹介しますので、よろしければご覧ください。
・身体拘束廃止のためのケアの工夫実例集~ファースト・ステップ~(日本慢性期医療協会運営委員会)
・身体拘束の廃止に向けた取組みの事例集(岡山県保健福祉部長寿社会対策課)
「身体拘束ゼロへの手引き」にも事例が載っています。
緊急やむを得ない場合とはどんな状況か
緊急やむを得ない場合とは、「切迫性」「非代替性」「一時性」の三つの要件を全て満たし、かつ、それらの要件の確認等の手続きが極めて慎重に実施されているケースに限られる。
こちらもまた聞きなれない漢字が多いですが、「切迫性」「非代替性」「一時性」とは以下の通り。
切迫性とは:利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
非代替性とは:身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと
一時性とは:身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること
身体拘束は、かなり限られた条件がないとできないってことですね。
まとめ
身体拘束は良くないことだということは、みなさん感覚的にもわかっているかと思います。
安易に身体拘束を行わないこと、どうやったら身体拘束をせずに安全に生活してもらえるかを考えることが大事ですね。
2018年(平成30年)4月に身体拘束廃止未実施減算が強化されています。
介護士へ身体拘束の知識を身に付けさせることが、介護事業者に求められていく流れになっていますね。
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