スピーチロックという言葉を知っていますか?
スピーチロックとは、「ちょっと待って」「座ってて」などの声掛け(スピーチ)で利用者さんの行動を抑制(ロック)することです。
どうしたらスピーチロックを減らせるのか、スピーチロックをしてしまう原因を明確にして改善方法を考えていきましょう。
スピーチロックとは何か?
介護士が言葉で利用者さんを動けなくすることをスピーチロックと言います。
まずはスピーチロックの基礎知識を学んでいきましょう。
スピーチロックは「身体拘束=高齢者虐待」のひとつ
利用者の行動を制限する行為が身体拘束です。
言葉で利用者さんの行動を制限するスピーチロックも身体拘束になります。
身体拘束というと身体をひも等でしばったり、ミトンの手袋やつなぎ服などで自由を奪ったりして直接身体を利用者さんが思うように動けなくすることを思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、「立たないで」というような言葉で行動を制限するスピーチロックや、睡眠薬などの向精神薬を必要以上に服用させて自由を奪うドラッグロックも身体拘束になります。
身体拘束については「介護施設での身体拘束の基礎知識を学んで、自信を持ってケアしよう!」という記事で詳しく解説していますので、よろしければご覧ください。
どんな場面でどんな言葉を使うかだけでなく、相手の感情を考えることが大切
単純に「ちょっと待って」という言葉を使ったらスピーチロックになるわけではありません。
「先に手伝わなきゃいけない人がいるから、ちょっと待ってもらえますか(お願い)」
「そうなの(納得?)」
って感じで納得してもらえたなら、待っててもらうという結果が同じでも行動を抑制したわけではないですよね。
ま、そう簡単にいけば世話ないんですけどね。
なかなかそううまくはいきません。
でも、頭ごなしに「ちょっと待って」っていうのとは意味が違ってきます。
どんな言葉を使うかは、そこまで重要ではありません。
利用者さんが、その言葉や態度からどんな印象を受けてどんな感情になったのかが重要です。
強いストレスを感じて行動を制限された、と思ったのならスピーチロックになってしまうでしょう。
どうやったらていねいな声掛けが出来るのかを考えよう
ていねいな声掛けが出来ればスピーチロックは改善できますよね。
複数の原因が重なってスピーチロックは起こります。
ひとつずつ問題を解消して、良いケアが出来るようにしていきましょう。
利用者さんが落ち着かない原因を見つけて改善する
いちばん最初にすべきことは、スピーチロックしなきゃいけない状態をつくらないようにすること。
ここから逃げていると、いつまでたっても根本的な問題は解決しません。
リスクがなくて周りにも迷惑をかけてないなら、100回トイレに行っても良いでしょう。(別の問題はありますが)
でも、リスクがあるからスピーチロックしちゃう。
じゃあ、そのリスクはなぜ起こるのか。原因を考えましょう。
例えば、独歩では転倒リスクが高い利用者さんが何度もイスから立ち上がって歩き出そうとされる場面で考えてみましょう。
・なぜ立ち上がるのか
→どこかに行きたい?→家に帰りたい?トイレに行きたい?
→そこに座っていたくない?→お尻が痛い?やることがなくて退屈?
といった感じで「なぜなんだろう」を繰り返して、推測して、それが解決出来たら落ち着いてくれるかもしれない。
100の事例があったら100通りの解決方法があります。
という声が聞こえてきそうですが、あきらめずにもう一度考えてみませんか。
人員を充足させる
ここからは介護する側の問題点です。
業務が忙しくて手が回らない、リスクが高い利用者が複数いる、などの問題を手っ取り早く解決する方法は人員の充足です。
だから、スピーチロックは施設全体で考えていかなきゃいけない問題なんですよね。
これまた「それが出来たら苦労しないよ」って感じですが。
アイデアとしては傾聴ボランティアさんや、介護助手を入れることでしょうか。
うちの施設では介護助手を導入してリネン交換や洗濯物などをやってもらい、空いた時間で介護職員が利用者さんとのコミュニケーションやレクや事務作業を行えるようになりました。
当然ですが、業務に少しでも余裕が生まれると介護士の声掛けもていねいになりやすいです。
休みをきちんと取る、サービス残業をしない
心身ともに健康な状態で勤務に臨むことが、良い接遇をするための第一歩です。
そのためにはしっかり休まないとね。
しっかり休むにはメリハリが大事なので、まずは勤務時間を守ること。
時間通りに来て、時間通りに帰れるように努力していきましょう。
休憩時間も仕事しちゃダメ。
ということで、またまた「施設全体で考えていかなきゃいけない問題」「それが出来たら苦労しないよ」と。
認知症の知識をつける
認知症の利用者さんに
「トイレはさっきも行ったでしょ」「何度も言わせないで」
という言い方は不適切な場合が多いです。
だって忘れちゃってるんだから。
トイレに行くのは初めてだと思ってるし、それを言うのは初めて。
言うのが初めてだったら、初めて聞いたように対応するのが基本です。
また、認知症の方に限らず、強い言い方をすれば伝わるわけではないですよね。
恐怖や威圧感で言うことを聞かせようとするのではなく、効果的な伝え方を考えていきましょう。
時々、スピーチロックが悪いことだということを認識していない職員もいます。
そんな人には、スピーチロックされる側を体験してもらい、言葉でしばられる人の気持ちを理解してもらうのも1つの方法です。
介護士が自分の感情をセルフコントロールする
とはいえ、同じことを何度も言われれば誰だってストレスがたまるのは当然。
イライラしているな、きつい言い方になってるなと思ったらいったんその場を離れましょう。(可能なら)
そして2~3回深呼吸、ストレッチ、水分補給。
何でも良いので心を落ち着かせましょう。
ストレスを自覚することが大切ですね。
利用者さんとの関係性を理解する
普段から利用者さんとなれなれしくなりすぎていませんか?
どういう人間関係を構築していくかは、対人援助の仕事では超重要です。
介護現場に適した接遇ってどんな感じ?
それを考えることが大切です。
旅館の仲居さんのようなていねいな接遇は、介護現場では過剰かなと思います。
ただ、頻繁に顔を合わせる介護の仕事では距離が近くなりすぎて、お友達感覚で接している場面も時々目にします。
それは良くないですよね。
接客業、サービス業に近い感覚も必要かもしれません。
業態によっても多少違ってくるかもしれませんね。
高級な有料老人ホームでは、よりていねいな接遇が求められるでしょう。
また、利用者さんの反応によっても変える必要があるのかもしれません。
相手がどのような接遇を求めているのか、介護士としてどのような接遇をするべきなのかをきちんと考えていきましょう。
言い方を変えて印象を変える
ただの言葉遊びと取られられちゃうと悲しいのですが、言い方を変えることで意識を変えることが出来ます。
ちょっと待って→命令
待ってください→お願い
待っててもらえますか→確認
命令は論外ですよね。
基本的には、今すぐには手伝えない理由を伝えてそれでいいか利用者さんに確認しましょう。
「ほかの方のトイレを手伝ってから来るので、2分待っててもらえますか」って感じです。
ただ、これも話す速さや声量、話す時の介護士の態度、などで印象が全然違ってきます。
使う言葉を変えるだけでは大した意味はありません。
緊急時はどうする?
どんな場面でもスピーチロックしちゃダメなんでしょうか。
利用者さん本人や周りの人にケガなどのリスクがあり、それを予防したい時に、それを防ぐ手段が見つからない場合は、何かしらの方法で拘束する必要が出てきます。(もしくは、怪我をしてもしょうがないとリスクを容認するか)
身体拘束の基準では「緊急やむを得ない場合」に「適切な手順を経れば」行ってもよいことになっています。
物理的に動けなくするのか、薬で動けなくするのか、言葉で動けなくするのか。
一番手軽で、利用者さんへのダメージが少なそうな方法が、言葉で動けなくするスピーチロック。
だから、スピーチロックが起こりやすいんですよね。
介護現場で介護士として働いている身としては、全てのスピーチロックを否定することはできません。
ただ、
というのは、気になるところです。
もっと良い方法はないのか。考え続けていきましょう。
介護に適した接遇でスピーチロックをなくそう
忙しいから声掛けが雑になり、フロアの雰囲気も慌ただしくなる。
それで利用者さんも落ち着かなくなっちゃって、さらに忙しくなる。
という悪循環をどこで断ち切るかを考えられると良いですね。
現状で出来ることをやっていこう
というのが僕の基本スタンスです。
いま出来ることが、まだあるはず。
しょうがないと開き直らずにひとつずつやっていきましょう。
声掛けこそが最高の介護技術だと僕は思います。
場面に合わせた適切な声掛けを身に付けていきたいですね。
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