認知症のある方への対応で、思うようなケアができずに困ってしまうケースはとても多いです。
あるある…。
僕は介護の仕事を始めて10年。ユニット型特養の介護士としてたくさんの入居者さんと向き合ってきましたが、今でも試行錯誤を繰り返しています。
この記事では、新人の介護士さんが認知症のある方のケアをワンランクあげるための
「情報収集の大切さ」
についてお伝えします。この記事を読めば、今まで苦手だったケアがちょっと上達するかもしれません。
情報が多ければ多いほど選択肢が増えるので、ケアの質は上がります。認知症のある入居者さんを上手にケアをするために、日頃から情報収集を心がけましょう。
「自分がやってほしいようにやる」は100点満点の対応ではない
新人の介護士さんや実習できている学生さんによく言うのが
「自分がやられて嫌なことはしないようにしましょう」
ですね。
介護の仕事は、助けが必要な入居者さんに対してサービスを提供するので、ついつい介護士の立場が上のように感じてしまったり、偉そうで高圧的な態度をとってしまったり、となりがちです。
でも、入居者さんと介護士の立場は対等ですよね。
そこで、自分が介護される立場になった時にどういうケアをしてほしいのか。それを考えることで、ていねいな介助や、思いやりのある声掛けがやりやすくなると思います。
ただし、この考え方は100点満点ではありません。
すべての人には個性があり、身体能力や体調はもちろん、性格や趣味嗜好などの違いがあるからです。
アナタはわたしじゃないし、わたしはアタナじゃない
例えば「気が短くてテキパキ動く、人見知りで自分のペースで生活したい85才男性の入居者さん」と「のんびりでおしとやか、まわりの入居者さんと仲良く生活したい85才女性の入居者さん」に同じようにケアをしますか?
おそらくしないでしょ。
そう考えると、あなたと入居者さんだってそれぞれ違った個性を持った人間なんだから「自分がやってほしいようにやる」というのもちょっとズレていることに気がつくと思います。
あなたがやってほしいようにやるのではなく、目の前の入居者さんがやってほしいようにケアするんです。似ているようで、そこには大きな違いがあります。
そのためには、入居者さんのことを知る必要がありますね。
相手を知ることがケアの質の向上につながる
僕はあまい物が好きで、コーヒーはカフェオレだったり、お菓子もしょちゅう食べたりします。で、たまに同僚が何気なく飲み物をくれることってあるでしょ。お菓子でもいいんだけど。
それが自分好みだとめっちゃ嬉しいんですよね。単純にもらって嬉しいだけじゃなくって
「あぁ、見てくれてるんだ。気にかけてくれてるんだ」
って。
その気持ちがうれしいんだよね
わかりやすく食べ物で例えたけど、入居者さんのケアも同じだと思うんですよ。
排泄介助でも移乗介助でも一緒。
それぞれの入居者さんにも、こういうやり方は良いな、こういうやり方はイヤだなって感じるケアがあるはずです。
それを考えること、感じることが大切ですね。
そうすることで、
- 本人の意向に合わせた対応ができる
- なぜケアが上手くいかないのか、の「なぜ」を考えるヒントになる
っていうイイことがあります。
どんな情報が必要なのか
どんな情報でも役に立つんだけど、まずはケアプラン作成時のアセスメント表や、入居時のサマリーに書かれてるような基本情報を確認しましょう。
- 本人、家族の意向
- 家族構成
- 生活歴(生まれ育った場所、学校、仕事)
- 趣味・嗜好
- 性格
- 既往歴、現病歴
- 身体状況、どんなケアを受けているか
入居時のサマリーなど過去に収集した情報をときどき見返すと新たな発見があるのでオススメ。
まず確認するのは既往歴・現病歴
入居者さんは、何らかの疾患によって介護が必要になっているので、その原因を知ることは大切ですね。
いま関わっている入居者さんの主な疾患わかりますか?
わからなければ機会を見つけて調べましょう。
認知症でもアルツハイマー型、脳血管性、レビー小体型などによってもある程度の傾向があるから、それを知っているだけでも対応がやりやすくなります。
糖尿病ならコーヒーを入れる時の砂糖を気をつけるとか、食事量が少ない時は低血糖に気をつけるとか。脳梗塞の既往があるなら水分量に気をつけるとか。
疾患によって考えられることがいろいろあります。
情報を活用するには知識も必要
つまり、入居者さんの疾患を知らないのは論外として、知ってたとしてもその病気の知識がなければあまり意味がないんです。ケアに活用できないからね。
アルツハイマー型、脳血管性、レビー小体型、認知症の違いはわかりますか?
わからなければ勉強しましょう(・∀・)
介護士にとって認知症の理解は超重要です。
僕も認知症だけでなく、わからない病気はすぐ調べるようにしたり、タイミングをみて看護師さんに聞いたり、最近ではサービス担当者会議で「〇〇という病気はケアで何か気を付けた方が良いことはありますか?」って聞いたりして知識をアップデートできるように心がけています。
生き生きと暮らしてもらうには生活歴に注目しよう
病気も大事だけど、介護士ならやっぱりこっちですよね、生活歴。
好きな食べ物や飲み物は絶対に知りたいし、趣味も気になります。
あとは日課もね。
今までやってきたことを施設でも続けられるって大事です。
入居者さんが若いころにしていた仕事から話がはずんだり、出身地から好物を当てたりとケアのヒントが見つかることが多々あります。
生活歴には暮らしを豊かにするヒントがたくさんあるので、できるだけ深堀りしましょう。
情報収集する時のちょっとした注意点
情報収集の方法は以下の通りです。
- 本人に聞く
- 本人のリアクションを観察する
- 家族から聞く
- 他の職員と情報共有する
- 入居時のサマリーやケアプランのアセスメント表を見る
特に目新しいものはありません。みなさん普段からやっていますよね。
ですので、ちょっとした注意点だけお伝えします。
本人のコトバ、本音は何パーセント?
まず大切にしたいのが本人に聞くことです。
これが一番。
入居者さんが認知症だからって
最初からあきらめていませんか?
もちろん加齢や認知症などによる物忘れや理解力の低下はあるので、どこまで本人の言葉を信用するのか判断が必要です。
この微妙な状態をできるだけ正しく判断することが、介護士の腕の見せ所でしょう。
「どうせ認知症だから…。」
と何もアクションを起こさないのはダメ。
本人のリアクションから判断しよう
情報は言葉だけではありません。
ケアした時のちょっとした表情や動きを見逃さないようにしましょう。
変化に着目すると情報の感度があがります。
入居者さんの変化はもちろん、介護士の変化もね。
たまには声掛けやケアの方法を変えてみてリアクションの変化を見るのも良いですね。
ここでは「いつもとなんか違う」ってのが大事になってきます。
「いつもとなんか違う」
これ介護士のキラーワードなので
覚えておきましょう(笑)
もちろん「〇〇が違う」って言いきれればべストですよ。
認知症やその他の精神症状がある方と、ない方を分けて考える必要はない
僕は、入居者さんとコミュニケーションをとる時に認知症のある方でもそれをなるべく意識しないように心がけています。その方が自然なコミュニケーションがとれるんですよね。
もちろんどんな疾患があるのかは知ったうえでの話です。
病状から推測できることはあるので、知っていることは重要ですよ。
知ったうえで意識をしないってところが大事だと思います。
認知症の方のココロの状態を理解するのは本当に難しい
僕は介護士を10年以上やってますけど、認知症のある方の感覚を理解するのは本当に難しいなって思ってます。
その思いがより強くなったのが、「認知症世界の歩き方」という本を読んでからですね。
当事者の言葉から気持ちを想像する「認知症世界の歩き方」
「認知症世界の歩き方」は、認知症のある方へのインタビューを元につくられた本です。
最近始めたブクログにもレビューを載せていますが、おすすめポイントは以下の通り。
- 認知症のある本人の言葉なので、リアルな感覚が表現されている
- 難しい言葉(専門用語)が少なく、認知症はどういった症状が現れるのかが学べる
- とにかく読みやすい
- エピソードが具体的でイメージしやすい
- 文字とイラストのバランスが良い
- 文字が大きめ
読者のメインターゲットは一般の人かもしれませんが、介護士さんにぜひ読んでほしい内容になっています。
本人の言葉を元に書かれた本なので認知症の症状は軽度でしょう。でも、現在は認知症がかなり進行してしまっている入居者さんも症状が軽かった時期があったはずです。
その状態を理解することは、どんな認知症のある方をケアする時にも役に立ちます。
たくさんの認知症がある入居者さんと関わってきましたが、この本を読んで認知症のある入居者さんの感覚を全然理解できてなかったなーと、反省しました。
てゆうか理解するのは無理なんじゃないかと思いました。理解するのは無理だとわかったうえで、それでも理解しようとすることが大事なんだと思います。
【まとめ】相手のことはそう簡単にわからないことを理解したうえで、わかろうとすることがより良いケアにつながる
認知症のある入居者さんの感覚に限らず、相手のことはそう簡単にはわかりません。
僕らがケアをしている高齢者の方々は、加齢や疾患により自分の思いを表現するのが難しい方がほとんどです。
だからこそ、介護士はいろんなところにアンテナをたてて情報収集に努めていく必要があるんですね。
食事や入浴介助を拒否されて上手くいかない時、情報収集を一生懸命したうえで、本人の状態になりきってその理由を考える。
これが大事です。
ケアが上手くいかなくて困った時は、まずは以下の情報収集を頑張ってみてください。
- 入居時のサマリー、ケアプランのアセスメントを見よう
- 本人、家族に話を聞いてみよう
- 本人のリアクションを観察しよう
- 入居者さんの疾患について調べよう
(おまけ1)実習生に送ったアドバイス
介護福祉士養成校の実習生を見ていた時の日誌で、とある入居者さんのトイレ誘導の声掛けが上手くいかなくて苦労していた実習生が「もし私がされる側になったらこういう対応をしてほしい」って書いていたので返したコメントです。
今回の記事と関連する部分も多いので参考にどうぞ(・∀・)
「もし私がされる側になったら」と考えるのは、第一段階としてはOKです。自分がされて嫌なことはしない。というのは大切なことですね。
ただし、○○さん(実習生)は××さん(入居者)ではありません。例えば、僕はビールが好きで毎晩飲んでいますが、おそらく××さんはそうではないでしょう。それはコミュニケーションにおいても同じことが言えます。優しく声をかけてほしいのか、ハッキリと言ってほしいのか…。そう考えると「自分が相手の立場だったら」という考え方はちょっと危ういかもしれません。本当の意味で相手になりきって、××さんはどう関わってほしいのか、どう感じているのかを考えていくことが大切です。
日々相手のことを思いやり、興味をもってコミュニケーションを積み重ねていくこと。それが信頼関係を築いていくコツです。
(おまけ2)介護士が思うようなケアは誰が主体?
さて、最後にひとつ。
この記事の冒頭の一文
「認知症のある方への対応で、思うようなケアができずに困ってしまうケースはとても多いです。」
に違和感がありませんでしたか?
「ん?なんか変だな。」と感じた方は素晴らしい!
この「思うようなケア」こそが介護士目線での考え方です。
この意識を入居者さん主体に変えられれば、ワンランク上のケアができるようになるかもしれませんね。
ただし、本人主体を意識するばっかりでは逆に生活の質が落ちてしまうのもまた正しいと思います。
「お風呂に入りたくない」って言ってるからって何ヶ月も入浴できないのは間違っているでしょう。
そこはやっぱりバランスですね。
ついつい介護士主体のケアになりがちだから注意しましょうって話です。
入居者さん主体のケアと生活の質、ほどよいバランスを見つけていくのもまた介護士の仕事のひとつだと思います。
お互い頑張っていきましょう
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